2011-01-01から1年間の記事一覧

「就職、絶望期 「若者はかわいそう」論の失敗」 海老原 嗣生 (2011) 扶養者新書

遅々としてまるで変わらぬように見えて、アメーバのように最適なかたちへとなし崩し的に変化していく。それが日本という国の得意技なのだ。雇用の改革も、もう半ばまで到達し、少なくとも「年功序列」は穏やかに崩壊している。10年後に振り返ると、「ああ、…

「夜中の薔薇」 向田邦子 (1984 単行本は1981) 講談社文庫

男のやさしさは、袷仕立てだと思います。女のやさしさは、何といったらいいのでしょうか、女と生まれた義務のようなものとか、小さな自己陶酔があるだけですが、男のやさしさには、人間としてのかなしみやはにかみの裏打ちがあるように私には思えます。(女…

「大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 知的現場主義の就職活動」 沢田健太(2011)ソフトバンク文庫

しかし、教養教育の意義は十分認めた上で、私はある程度職業を意識した教育プログラムを提供できる大学も作るべきだと思う。アカデミズムと程遠い学生は増えている。が、他に行き場がないのだから、大学生を減らすわけにもいくまい。だったらまず、ボーダー…

「成功は一日で捨て去れ」 柳井 正 (2009) 新潮社

自分の会社や事業として、単純に「こんなことをしたい」のではなく、常に「どうあるべきか」を考えて決断しなくてはならない。多くの人が、自分に果たしてできるだろうか、自分には能力がないのではないか、こんなことよりも自分は別のことをした方がいいの…

「男たちへ」 塩野七生 (1993) 文春文庫

だが、三十代の男たちとなると、彼らのその後の見当がだいたいはつくようになる。何かやれそうか否かが、ほとんど分かるようになってくるのだ。それが四十代ともなると、もう明白である。話を少ししただけで、これは幸福な人生を歩むかそれとも不幸で終わる…

「大学とは何か」 吉見俊哉 (2011) 岩波新書

次世代の専門知に求められているのは、全く新しい発見・開発をしていくという以上に、すでに飽和しかけている知識の矛盾する諸要素を調停し、望ましき秩序に向けて総合化するマネジメントの知である。このような専門知を発達させるには、既存分野の枠内に異…

「日本の未来について話そう ―日本再生への提言―」 マッキンゼー・アンド・カンパニー責任編集 (2011) 小学館

人口増加に加え、グローバリゼーションと無機質化が進行しつつある世界の中で、人口が減少している日本社会は人と人との温かいつながりのある独自路線を選ぼうとしている。そこに、何か不都合があるのだろうか。世界に知られたモノづくりの力と伝統工芸をミ…

「男の作法」 池波正太郎 (1984 単行本は1981)新潮文庫

それで、稽古をしているときに、多勢の役者がぼくを見る目で自分が分かるわけだ。目つきで。彼らがぼくをどういうふうに見ているかということがいろいろわかる。それがためになるわけなんだ。自分じゃなかなか自分というものがわからないでしょう。そういう…

「超・居酒屋入門」 太田和彦 (2003 もとの単行本は1998) 新潮文庫

酒は一銘柄だけ飲んでも甘口なのか辛口なのか、淡麗なのか濃醇なのかよく分からないけれど、比べればすぐ分かる。そしてすぐに自分の好みも分かる。また互いに「これは重いな」「これはスッキリしてる」と言い合うのが、また楽しい。私はこれは日本酒のとて…

「田辺聖子の小倉百人一首」 田辺聖子 (1991 単行本は1989) 角川文庫

あひみての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり 生きる上での知恵、参照軸といったものは、みんなこうした古典から学べるのではないかと思う。「何に依って生きるか」は、自ら考え求めなければどこからも与えられないということが、大人になると…

「うたかた」 田辺聖子 (2008 単行本は1975) 講談社文庫

虹である人生の真実の生命は一瞬のものだとは、いったい、誰が知り得よう? 人間が真実を抱いていても、それがあい手に伝わり、はッしとひびくのは、ほんの一瞬間で、しかも汐のみち干のようにそれはきまりのある時ではなく、いつ光りだすか、わからないのだ…

「人生はだましだまし」 田辺聖子 (2005 単行本は2003) 角川文庫

<気ごころ>が知れる、というのは、では、どういう場合をいうのだろう。多分、それは自分の理解圏内に相手が矢を飛ばしてくることだろう。(こういうことだろうと思ったら、やっぱりだった)などと当方は安心する。それによって相手を安く踏んだりしない。…

「言い寄る・私的生活・苺をつぶしながら」 田辺聖子 (2010 初版は1974、1976、1982) 講談社文庫

男女の機微や人生知といったものがこれほど詰め込まれた小説を知らない。圧倒。三巻目の解説で津村記久子という作家が書いているように、ある種の「女の子のすべて」がここには書かれているのかもしれない。男とは何か、人生とは何か、いかに生き、いかに死…

「美酒の設計」 藤田千恵子 (2009) マガジンハウス

三十数年続けてみても、米と水と酵母だけの世界というのは、広くて深くて底なしです。宇宙のようでもあるし、ほんとにわからない無限の世界ですね。酒造りというのは、化け物相手のようだ、と恐ろしくなることすらありますし、いまだに毎年、さあ、今年はな…

「愛と情熱の日本酒」 山同敦子 (2011 増補版  単行本は2005) ちくま文庫

酒の評価基準に普遍的なものはなく、極論すれば、あるのは好き嫌いだけ。その蔵元の原料の選び方、造り方や味わい、保存の仕方やラベルデザインまで、結局のところは飲み手が、その蔵の姿勢を好きか、嫌いかではないか。(p-279 第九話 「磯自慢」寺岡洋司)…

「本の魔法」 司 修 (2011) 白水社

漱石が、ものを書き、一冊の本にしたときに、編集者や装幀者や装画家がいて、本の全体を構成していき、そこにしかない書物の雰囲気をつくりだし、完成されたのだから、全集になって文字だけが並んでいるのを読んだだけでは、難解とされるだけだ。(肌 「なつ…

「海辺のカフカ」 村上春樹 (2005 単行本は2002) 新潮文庫

「でも僕にはまだ生きるということの意味が分からないんだ」と僕は言う。/「絵を眺めるんだ」と彼は言う。「風の音を聞くんだ」/僕はうなずく。/「君にはそれができる」/僕はうなずく。(第49章 p-528) 村上春樹はなにがいい?と訊いたら「海辺のカフカ…

「センセイの鞄」 川上弘美 (2001) 平凡社

時刻表を見ると、最終のバスはすでに出てしまっていた。ますます心ぼそくなった。足ぶみをした。体が、あたたまらない。こういうとき、大人ならば、どうやってあたたまればいいのかを、知っている。今わたしは子供なので、あたたまりかたが、わからない。(…

「イン・ザ・プール」 ・「空中ブランコ」奥田英朗 (2006、2008 単行本は2002、2004) 文春文庫

点滴用のスタンドが倒れ、レントゲン・ビュワーが宙に舞う。パソコンは窓ガラスを突き抜け中庭に転がっていった。(勃ちっぱなし p-119)/窓の外はいつの間にか雨模様だった。誰が降らせた雨か、すぐにわかった。(女流作家 p-279) 小説の筋は書いているあ…

「はじめに言葉ありき おわりに言葉ありき」島地勝彦 (2011) 二見書房

創造の主は、精子と卵子が愛しあいながら結合すれば、優秀な子供を授ける平等なチャンスを与えている。優秀な両親であっても、ときに凡庸な子供が生まれるのは、すでに二人の愛が醒めているからなのだ。反対に大したDNAでなくても、愛しているうちに精子が卵…

「ミラノ 霧の風景」須賀敦子 (2001) 白水Uブックス

柩が教会から運びだされるというときに、アントニオだ、とだれかが言った。まわりにいた人たちが、道をあけたところに、アントニオが汗びっしょりになって、立っていた。手には半分しおれかけたエニシダの大きな花束をかかえていた。きみが好きだったから、…

「遠い朝の本たち」 須賀敦子 (2001 単行本は1998) ちくま文庫

調布で会ったとき、大学のころの話をして、ほんとうにあのころはなにひとつわかってなかった、と私があきれると、しげちゃんはふっと涙ぐんで、言った。ほんとうよねえ、人生って、ただごとじゃないのよねえ、それなのに、私たちは、あんなに大いばりで、生…

「夜間飛行」 サン・テグジュペリ 二木麻里訳 (2010 原著初版は1931) 光文社古典新訳文庫

生死のはざまの不思議な異界にたどりついてしまったとファビアンは思った。自分の両手も、着ているものも、飛行機の翼も、何もかもが光り輝いている。しかもその光は上空からではなく下のほうから、周囲に積もっている白い雲から射してきていた。(p-107) …

「カイシャ維新」 冨山和彦 (2010) 朝日新聞出版

やはり企業経営の根本哲学は自助自立である。福沢諭吉翁の名言、「一身独立して一国独立する」は、現代においても全く輝きを失わず生きている。いや、平和で豊かな時代が長く続き、優しいゆりかごののような家庭環境で大事に育てられ、ゆとりを与えてくれる…

「家守綺譚」梨木香歩 (2004) 新潮社

もの悲しいような熱のとれた風が吹いてくる。さすがに夕暮れにもなると、晩夏は夏とは違うと気が付く。(木槿(むくげ) p-54) その人は「本を読むと映像が浮かぶ」という。長年本を読んできたけれど、そのような読み方があるとは思いもよらずに、驚く。彼…

「人生は冗談の連続である。」 島地勝彦 (2011) 講談社

最近の週刊誌が面白くないのは、不寛容すぎるからだよ。むっつりと不機嫌で何でも道徳的に断罪するモテない男のような匂いが誌面から漂ってくる。そんなものを読んでいてもまるで愉しくないだろ。不寛容な人というのは、正直者である自分が損をしているとい…

「西の魔女が死んだ」 梨木香歩 (2001、単行本は1994) 新潮文庫

そして、そのとき、まいは確かに聞いたのだった。(p-191) もはや古典の域に入る名作だろう。子供の頃、このようにものを考え、感じたのではなかったか、と思わせる。そしてその裏側で、幼いころはなつくものの、成長すると自分のもとを去っていく孫娘を見…

「プリンセス・トヨトミ」 万城目 学 (2010 単行本は2009) 文春文庫

「それは父の言葉だからだ、松平さん」(p-471) その「秘密」が存外周知の事実らしいので拍子抜けするのだが、なかなかに楽しい。大がかりに舞台は回るけれど、決して内戦になったりはしない脱力加減とテキトーさ。それはそのまま大阪の本質に通じている。…

「35歳までに読むキャリアの教科書―就・天職の絶対原則を知る」 渡邉正裕 (2010) ちくま新書

完璧な成果を求め、才能を伸ばして、限りなく完璧に近づいていくのだが、完璧に近づくに連れ、一投入時間あたりの能力の伸び率は、どんどん下がってゆく。一流の到達ラインはきわめて高く、二流以下との差は、ごくわずか、紙一重だ。この図で何が言いたいの…

「日本思想という病」芹沢一也、荻上チキ 編 (2010) 光文社

保守の一番の基礎のところは、人間の個人的な理性によって理想社会がつくれるという考え方に対する批判です。「そんなものは不可能だ、人間の能力の限界を直視せよ」という発想です。(1章 保守・右翼・ナショナリズム 中島岳志 p-20) 講演をテキストにした…