「大学とは何か」 吉見俊哉 (2011) 岩波新書

大学とは何か (岩波新書)
次世代の専門知に求められているのは、全く新しい発見・開発をしていくという以上に、すでに飽和しかけている知識の矛盾する諸要素を調停し、望ましき秩序に向けて総合化するマネジメントの知である。このような専門知を発達させるには、既存分野の枠内に異分野の要素を取り込むようなやり方ではだめで、そうした枠を超えて新たな専門知を創出していく必要がある。それと同時に、近代国民国家と連動してきた「教養」ではなく、むしろ中世の「自由学芸」に近い新たな横断的な知の再構造化が、ここに要請されてくるはずである。(終章 それでも,大学が必要だ p-244)
中央公論に論文が載ってから期待していた著作。その「大学はメタ・メディアである」という指摘は慧眼だと思うし、大学の誕生と死と再生の歴史を中世から語り起こすことで、大学というものの本質がどこにあるのかを捉えようとする議論は、ありがちな「べき」論を超えて真っ当。それが近未来においていかなる形を取りうるかについてギリギリまで考察されているが、「メタ・メディア」論は必ずしもそれ以上展開せず、「有用な知とリベラルな知の対抗的な協働」(カント)の中で、「学問上の結合と離反が繰り返す、一種のリズム」(レディングズ)が、「新しい技術によって変容する新たな公共空間へと接近していく」(デリダ)ようなもの、といった感じか。従来のイメージから大学という制度を解放し、その本質に、デジタル革命後の世界における新たな形を与えていく必要がある、という方向性には学ぶところ大。そこでは素性の分からない「なんちゃら学」が乱立するのではなく、伝統あるコアな学問どうしが臨機応変に協働しながら、現代の人間の諸問題を最先端技術をもって実践的に解いていくなかで、その学問の「幅」を増し、自らのありようを問い直していくのではないかと思う。(2011年12月4日読了)