「家守綺譚」梨木香歩 (2004) 新潮社

家守綺譚
もの悲しいような熱のとれた風が吹いてくる。さすがに夕暮れにもなると、晩夏は夏とは違うと気が付く。(木槿(むくげ) p-54)
その人は「本を読むと映像が浮かぶ」という。長年本を読んできたけれど、そのような読み方があるとは思いもよらずに、驚く。彼女のお薦めの本は、やはり極めて映像的で、書かれてある言葉をかみしめるようにして読む人間も、思わず情景を思い浮かべる。人魚? 河童? たいした事件も起こらないまま、虚実綯い交ぜの静かな時間が流れる。その浮遊感と可笑しさに、ひととき現実を忘れる。(2011年7月6日読了)