2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「海辺のカフカ」 村上春樹 (2005 単行本は2002) 新潮文庫

「でも僕にはまだ生きるということの意味が分からないんだ」と僕は言う。/「絵を眺めるんだ」と彼は言う。「風の音を聞くんだ」/僕はうなずく。/「君にはそれができる」/僕はうなずく。(第49章 p-528) 村上春樹はなにがいい?と訊いたら「海辺のカフカ…

「センセイの鞄」 川上弘美 (2001) 平凡社

時刻表を見ると、最終のバスはすでに出てしまっていた。ますます心ぼそくなった。足ぶみをした。体が、あたたまらない。こういうとき、大人ならば、どうやってあたたまればいいのかを、知っている。今わたしは子供なので、あたたまりかたが、わからない。(…

「イン・ザ・プール」 ・「空中ブランコ」奥田英朗 (2006、2008 単行本は2002、2004) 文春文庫

点滴用のスタンドが倒れ、レントゲン・ビュワーが宙に舞う。パソコンは窓ガラスを突き抜け中庭に転がっていった。(勃ちっぱなし p-119)/窓の外はいつの間にか雨模様だった。誰が降らせた雨か、すぐにわかった。(女流作家 p-279) 小説の筋は書いているあ…

「はじめに言葉ありき おわりに言葉ありき」島地勝彦 (2011) 二見書房

創造の主は、精子と卵子が愛しあいながら結合すれば、優秀な子供を授ける平等なチャンスを与えている。優秀な両親であっても、ときに凡庸な子供が生まれるのは、すでに二人の愛が醒めているからなのだ。反対に大したDNAでなくても、愛しているうちに精子が卵…

「ミラノ 霧の風景」須賀敦子 (2001) 白水Uブックス

柩が教会から運びだされるというときに、アントニオだ、とだれかが言った。まわりにいた人たちが、道をあけたところに、アントニオが汗びっしょりになって、立っていた。手には半分しおれかけたエニシダの大きな花束をかかえていた。きみが好きだったから、…

「遠い朝の本たち」 須賀敦子 (2001 単行本は1998) ちくま文庫

調布で会ったとき、大学のころの話をして、ほんとうにあのころはなにひとつわかってなかった、と私があきれると、しげちゃんはふっと涙ぐんで、言った。ほんとうよねえ、人生って、ただごとじゃないのよねえ、それなのに、私たちは、あんなに大いばりで、生…

「夜間飛行」 サン・テグジュペリ 二木麻里訳 (2010 原著初版は1931) 光文社古典新訳文庫

生死のはざまの不思議な異界にたどりついてしまったとファビアンは思った。自分の両手も、着ているものも、飛行機の翼も、何もかもが光り輝いている。しかもその光は上空からではなく下のほうから、周囲に積もっている白い雲から射してきていた。(p-107) …

「カイシャ維新」 冨山和彦 (2010) 朝日新聞出版

やはり企業経営の根本哲学は自助自立である。福沢諭吉翁の名言、「一身独立して一国独立する」は、現代においても全く輝きを失わず生きている。いや、平和で豊かな時代が長く続き、優しいゆりかごののような家庭環境で大事に育てられ、ゆとりを与えてくれる…