2010-01-01から1年間の記事一覧

「なんとなくな日々」・「此処彼処」 川上弘美 (2009 単行本は2001・2005) 新潮文庫

京都で、フロリダのすっぽんに会った。何時間か後には私は東京に帰っているだろう。一瞬のすれ違いである。生きている間にそういうすれ違いはいくつもあるのだろうな、と思うと、ちょっとくらくらした。ちんちんちん、という踏み切りの音を聞きながら、京都…

「就活必携」 森 吉弘 (2008) アスペクト

ちょっと待って下さい。物事には諦めなければならないことと、諦めてはならないことがあります。(3章 行動編 p-112) 学生に薦める前に通読。「社会人ならこう考える」というところが親しみやすい語り口で書かれており、なぜそうしなくてはならないのか、と…

「『若者はかわいそう』論のウソ データで暴く『雇用不安』の正体」 海老原嗣生 (2010) 扶養社新書

この本は、単純に考えると「若者は言われるほどかわいそうじゃない」、つまり、今の日本は問題ないよ、と受け止められる嫌いがあるだろう。確かにその意図は、少しある。パッチワーク的に集めた「若者かわいそう」論、そういう俗説的状況と現実は異なる、と…

「街場のメディア論」 内田 樹 (2010) 光文社新書

それは医療と教育という、人間が育ち、生きてゆく上で最も重要な制度について、市民の側に「身銭を切って、それを支える責任が自分たちにはある」という意識がなくなったからです。市民の仕事はただ「文句をつける」だけでよい、と。制度の瑕疵をうるさく言…

「世界の測量 ガウスとフンボルトの物語」 ダニエル・ケールマン 瀬川裕司訳 (2008) 三修社

どこへ行っても、彼がメモを取る速さは労働者の驚嘆の的となった。つねに旅の途上にあり、眠ったり食事をしたりすることもほとんどなく、そんな生活がどんな意味を持つかについては、見当も付かなかった。兄に送った手紙には、僕の中には、自分がいつか理性…

「走ることについて語るときに僕の語ること」 村上春樹 (2010 単行本は2007) 文春文庫

このような能力(集中力と持続力)はありがたいことに才能の場合とは違って、トレーニングによって後天的に獲得し、その資質を向上させていくことができる。毎日机の前に座り、意識を一点に注ぎ込む訓練を続けていれば、集中力と持続力は自然に身についてく…

「自由に生きるとはどういうことか 戦後日本社会論」 橋本 努 (2007) ちくま新書

創造を求める人々は、わざわざ大きな美術館やコンサートホールに出向いて、すでに名声を得たアーティスト達の作品を鑑賞することを好まない。彼らはむしろ、「創造の過程」を目の当たりにするような、生き生きとした芸術体験を求めている。たとえば、まだ無…

「行きつけの店」 山口 瞳 (2000) 新潮文庫

こういうものを書き終わって、いま私の心に残るものは、意外にも“時の移ろい”である。あれが美味かった、あそこの眺めがよかったではなく、あのときのあの人の笑顔がよかったという類のことである。それは私の瞼に焼き付いている。私はそのことに驚く。(時…

「ザ・ベリー・ベスト・オブ『ナンシー関の小耳にはさもう』100」ナンシー関 (2003) 朝日文庫

テレビの見方というか機能の一つとして「動物園的役割」というのもあるわけである。檻の中の変わった生き物を見物する楽しみ。たとえその生き物が、こちら側の利益になる何か(労働や芸)をするわけではなく、ただ遊んでいるだけであっても。そう考えるとこ…

「乗り移り人生相談 ―柴田錬三郎・今東光・開高健、降臨!!」島地勝彦 (2010) 講談社

大僧正はよく「極上の暇つぶしをしなくてはあかん」とおっしゃっていた。そういえば、「人生は誰と出会えるか、その積み重ねでしかないんだよ」という言葉もよく聞いた。このひとの言葉をもっと聞きたい、その考えをもっと深く知りたい、そう思える人とどれ…

「現代日本の転機 「自由」と「安定」のジレンマ」高原基彰 (2009) NHKブックス

つい一〜二年前まで、「格差」が包括的な政治的議題になったことは、なかった。それまでずっと論じられていたのは、政党政治においてもメディア・論断においても、外交・安全保障や靖国、憲法、再軍備ばかりだったことは、忘れられるべきでない。(第四章 日…

「貧困の終焉 2025年までに世界を変える」ジェフリー・サックス 鈴木主税・野中邦子訳 (2006) 早川書房

この本のページをめくる未来の世代には、私たちがこの重大な問いにどう答えたかが分かるだろう。その証拠は、彼らのいる世界に見られるだろう。歴史が私たちを裁くだろう。しかし、それがどんな歴史になるかは、私たちの行動による。私たちがいったい何者な…

「コーヒーが廻り世界史が廻る 近代市民社会の黒い血液」臼井隆一郎 (1992) 中公新書

誰でも思いつきそうなことを実現できるかどうかは、熱意と根気の問題を別にすれば、だいたいはコネの問題である。当時、アムステルダムの市長がルイ十四世に贈ったコーヒーの木は王立植物園の温室にあった。マルリー城に届けられた翌日、パリの植物園に輸送…

「若者よマルクスを読もう 20歳代の模索と情熱」内田 樹・石川康宏 (2010) かもがわ出版

疎外論の出発点が「自分の悲惨」ではなく、「他人の悲惨」に触れた経験だったということ。マルクスは「私たちを阻害された労働から解放せよ」と主張したわけではありません。「彼らを阻害された労働から解放するのは私たちの仕事だ」と主張したのです。この…

「モーム語録」行方昭夫 (2010) 岩波現代文庫

二十五年間こういう僻地で何一つ心を煩わすことなくのんびり暮らした後では、毅然たる性格は失われるということだ。人間の意志は障害に立ち向かうことで強まる。意志が阻害されなければ、目標を達成するために努力を要せず、自分の手の届く範囲にあるものだ…

「社会学入門 をどう捉えるか」稲葉振一郎 (2009) NHKブックス

「モダニズム」とはあえていうなら、近代の「自意識」です。「自意識」という日本語が一番簡単に使われる文脈は、そう「自意識過剰」ですよね。「モダニズム」という言葉で指し示されるもの、「モダニズム」の潮流に位置づけられる芸術作品や研究業績を特徴…

「世代間格差ってなんだ 若者はなぜ損をするのか?」城 繁幸 小黒一正 高橋亮平 (2010) PHP新書

二〇一〇年の時点では、三〇代までの投票率が八十五.四%あれば、六〇代以上と同数の世代別投票数を維持できる。だが二〇一五年には、三〇代までの有権者全員が投票しても、高齢者の投票者数を下回ってしまうのである。(第3章 [政治参加]ユース・デモクラ…

「本当の『食の安全』を考える ゼロリスクという幻想」畝山 智香子 (2009) 化学同人

若いお母さんたちが、必要のない不安に悩まされることなく本当に大切なことにリソースを割くことができるように、一人でも多くの人が適切な情報を持っていて欲しいと思います。今より未来のほうが少しでもよくなるように努力するのが大人の責任だと思います…

「読むので思う」荒川洋治 (2008) 幻戯書房

この七二段の原文は、正味一〇四字。激動中世の古典は、当時の人のいのちのように短い。数えてみて、おどろく。「方丈記」全文は、四〇〇字詰原稿用紙で、二十二枚半。「歎異抄」は二九枚。たったこれだけのことば数なのに、不滅。いまも読みつがれる。(数…

「経営に終わりはない」藤沢武夫 (1998 単行本は1986) 文春文庫

私はなにしろ仕事がしたかった。自分の持っている才能の限界を知りたいということが、私の夢だった。そして本田も、自分の持っている力を知りたいということですね。二人ともそれではなかったでしょうか。(生命をあずかる仕事 p-18) 現代的な経営理念を持…

「本田宗一郎 夢を力に 私の履歴書」本田 宗一郎 (2001) 日経ビジネス人文庫

順調にいっていた修理業をやめ、どうして商売替えしたかというと、自分の使っていた工員たちがボツボツ独立して店を持つようになったものの、自動車が急に増えるでなし、結局私の商売がたきとなって競争することになる。私はそれがいやだった。(第一部 私の…

「仕事漂流 就職氷河期世代の働き方」稲泉 連 (2010) プレジデント社

出向先でも一人前、戻って来ても一人前として見られるけれど、自分の中ではまだ何も積み上がっていないという思いが強かったんです。そのなかで、自分しか頼れないんだな、って考えるようになりました。会社は簡単に出向を決めたり、出向先から戻したりする…

「『知の衰退』からいかに脱出するか?」 大前研一 (2009) 光文社

ハッキリ言って、いまの(集合名詞としての)日本人はバカである。集団としてはこれほど知恵のない人々はいない。となれば、そこにつけ込もうとする人々が必ずいるはずである。(「低IQ社会」で得をしているのは誰か p-320) 言っちゃったよ(w。大前研一と…

「不安な経済/漂流する個人 新しい資本主義の労働・消費文化」リチャード・セネット 森田典正訳 (2008) 大月書店

私の主張の要点は人々の怠惰にあるのではなく、人々に職人的思考を難しくする政治的風潮を経済がつくりだしたということにある。「柔軟な」労働を中心にして築かれた組織において、何かに深くかかわることは、労働者をうち向きなものに、あるいは、視野の狭…

「超簡単 お金の運用術」 山崎 元 (2008) 朝日新書

若い人は人的資本が概ね潤沢だから金融資産ではリスクを取ることができる場合が多いし、高齢者は持っている資産の割にライアビリティが小さいからリスクを取ることができる場合が多い。(第二章 超簡単お金の運用法の補足と納得のための説明 p-65) というこ…

「あなたにも5000万円貯まる信じられない[仕組み]」上地明徳 (2008) 小学館

40歳から積立を始めた場合、毎月5万1000円の積立が必要です。この場合、積み立てたお金は1591万円。運用で増えたお金が3479万円です。では、これより10年早く、30歳から始めたときはどうなるでしょう。なんと、毎月わずか2万2000円の積立で5000万円に到達で…

「毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術」 カン・チュンド (2009) 明日香出版社

今から20年も経てば、何億人もの人が世界中を移動し、自国以外で生活するライフスタイルが定着している可能性があります。そうであれば、たった一つの国の、たった一つの固定資産にこだわるより、生活空間はレンタル(賃貸)にするほうが合理的ではないでし…

「日本はなぜ敗れるのか ― 敗因21ヵ条」 山本七平 (2004) 角川oneテーマ21

しかし、各人は、自らの主張に基づく行動を自らは取らなかった。そして自らの行動の基準は小松氏の記す「人間の本性」そのままであった。そのくせ、それを認めて、自省しようとせず、指摘されれば、うつろなプライドをきずつけられて、ただ怒る。そして、そ…

「これが『教養』だ」 清水真木 (2010) 新潮新書

しかし、ピースミールに問題を解決する決議論的な能力としての教養、つまり、本来の意味での教養の方は、現代の社会で生き残るでございましょう。生き残るばかりではなく、問題解決の能力を手に入れるために努力する者にとり、私どもの社会―それは確かに鬱陶…

「週1から始める元気な農業」 小田公美子 (2010) 朝日新書

「汚い、辛い…ではなく、キレイでもできる! かわいくもできる! ということをたくさんの人に知ってもらうことが出来ればいいと思うし、農家の皆さんも元気になって下さればいいなと思っています。」(第三章 減反に翻弄される村にギャル社長起つ! p-65) …