「遠い朝の本たち」 須賀敦子 (2001 単行本は1998) ちくま文庫

遠い朝の本たち (ちくま文庫)
調布で会ったとき、大学のころの話をして、ほんとうにあのころはなにひとつわかってなかった、と私があきれると、しげちゃんはふっと涙ぐんで、言った。ほんとうよねえ、人生って、ただごとじゃないのよねえ、それなのに、私たちは、あんなに大いばりで、生きてた。(しげちゃんの昇天 p-23)
エッセイは味わいのある言葉に出会うことが多くてよく読むのだけれど、このファンの多い著者のものはたぶん初めて。若いころどのような本を読んだか、それらにどのような影響を受け、いま何を思うか、といったようなことが綴られる。父親の転勤で移り住んだ東京になじめなかったことをきっかけに読書に耽溺していったのだろうけれど、若いときに周囲に違和感を感じた/感じざるを得なかった人というのは、しばしば本を読むことの中に活路を見出すものなのかもしれない。たまたま先に読んだサン・テグジュペリや、アン・リンドバーグの本が紹介されている。思いつきで手当たり次第に読んでいるわけだけれど、なにか、本に「呼ばれる」というようなこともあるのかもしれない。(2011年8月6日読了)