「日本のデザイン 美意識がつくる未来」 原 研哉 (2011) 岩波新書

よくできたデザインは、精度のいいボールのようなものである。精度の高いボールが宇宙の原理を表象するように、優れたデザインは人の行為の普遍性を表象している。デザインが単なるスタイリングではないといわれるゆえんは、球が丸くないと球技が上達しない…

「アグリ・コミュニティビジネス 農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会」 大和田順子 (2011) 学芸出版社

ただし、単にブランドとか、付加価値を付けて大都市で高く売るという発想では、従来の消費偏重社会のビジネスと何ら変わらないと思う。生産者、消費者、地域住民、NPO、研究者、自治体などが連携し、多様な生きものが育まれる農地や環境をともにつくり、地域…

「ジーノの家 イタリア10景」 内田洋子 (2011) 文藝春秋

ふと、心づけのコーヒーはありますか、と聞いてみる。/「ありますよ、お待ちしておりました」/バールマンはそう言って微笑み、奥の棚から淡いピンクの花柄の、あのコーヒーカップを出してきた。そして、コーヒーカップの脇に真新しいマルボロライトをひと…

「地域再生の罠」 久繁哲之介 (2010) ちくま新書

もともとスローフード発祥の地イタリアでは、スローフードの<本質>は、家族や友人など身近にいる大切な人と余計な気と金を使わず、ゆっくりと楽しい時間を過ごすことにある。つまり、スローフードの本質は「大切な人との交流」という一点に尽きる。(第3章…

「田舎力 ヒト・夢・カネが集まる5つの法則」 金丸弘美 (2009) NHK出版

こういった新しい地域は、自らの力でネットワークを構築し、互いに知恵とアイデアを交換しながら、ますます発展していく。インターネット技術は、消費者との直売ルート開拓や広報ツールとしてだけでなく、知恵ある生産者同士の情報交換にも大いに貢献してい…

「セーラが町にやってきた」 清野由美 (2009 単行本は2002)日経ビジネス文庫

それを考えると、会社に『存在感』という付加価値を与え、それを高めていくこと、という新しい基準に行き着くんです。『あの会社があると世の中が明るくなる』『楽しくなる』。表現は簡単ですが、人々にそう思われ、語られることが、二十一世紀には、企業の…

「地域の力−食・農・まちづくり」 大江正章 (2008) 岩波新書

「緑と農の体験塾」のある利用者が一年間にわたって、採れた野菜の重さを正確に計り、近くのスーパーでの価格と換算してみた。それによると、中玉トマト九四三二円、キュウリ七七〇一円、里芋六五六三円など、合計九二一一三円である。加藤によれば、この人…

「コミュニティデザイン 人がつながるしくみをつくる」 山崎 亮 (2011) 学芸出版社

社会的な課題に対してデザインは何が可能なのか。漠然と考えていたテーマが、このとき明確になった。デザインはデコレーションではない。お洒落に飾り立てることがデザインなのではなく、課題の本質を掴み、それを美しく解決することこそがデザインなのであ…

「経営戦略を問い直す」 三品和広 (2006) ちくま新書

まずはキャラクター。結論を先に述べると、こちらは簡単に見えないと思います。人に見られていると知りながら、非論理的、または非道徳的な言動を見せる人は、そうそういるものではないからです。キャラクターを見抜くには、様々な局面における日常の観察、…

「ざらざら」 川上弘美 (2011 単行本は2006) 新潮文庫

きっと明日も会社に行って、お昼にはパスタかカレーか焼き魚定食を食べて、夜お風呂に入った後にはマニキュアを塗りなおして、友達にちょっと電話をして、でもふられたことはまだ話さないで、かわりに今シーズンのバーゲンの話か何かして、電話を終えてから…

「オリガ・モリゾヴナの反語法」 米原万里 (2005 単行本は2002) 集英社文庫

そもそもオリガ・モリゾヴナは、実在した先生ですから。ソビエト当局が「彼女を解雇しろ」と校長に命令したのに対して、先生たちが、彼女が素晴らしい教師で、彼女を失うことはいかに大きな損失かという、電文にしてはあまりにも長すぎる嘆願文を書いた。そ…

「シモネッタのデカメロン」田丸公美子 (2008 単行本は2005) 文春文庫

もちろん失意の彼女は彼の出張中に退社してしまった。結局美人で有能な秘書を失うことになった彼は、今も自分の決断の是非を悩んでいるらしい。(かくもユニークな人たち 堅物愛妻家 p-163) たしか島地勝彦氏が福原義春氏から薦められたと書いていたのだけ…

「人類の星の時間」 シュテファン・ツヴァイク 片山敏彦訳 (1996 初版は1961) みすず書房

地上の人間たちの中へきわめて稀にしか下りて来ないようなそんな偉大な瞬間は、それを生かすことのできない不適任者におそるべき報復をする。あらゆる市民的美徳、ひかえめ、従順、熱心さと穏健、それらはつねにただ天才力を要望し、天才力を持続的な姿にま…

「カイミジンコに聞いたこと」 花井哲郎 (2006) どうぶつ社

どこの地質の説明だったかもう記憶に残ってはいないが、地層中の化石を掘り出しながら、化石の産状の説明をして、観察から過去の環境が復元されて面白いと話をしていたとき、ある学生が、突然、「先生、何のためにそんなことを研究しているのですか」と言う…

「百鬼園随筆」 内田百輭 (2002 初版本は1933) 新潮文庫

しかし、又他の、耶蘇教信者の友達が、こんな事を云った。実際、世渡りがうまいという事はひとつの天稟(てんびん)である。僕なんか到底実生活で成功する事は出来ない。努力すれば、却って反対の結果になる。実生活ばかりではない。うまいという事は信仰の…

「吟醸酒の光と影」 篠田次郎 (2001) 技法堂出版

清酒は江戸時代に灘という産地を形成した。明治後期に伏見も産地になった。だが、その生産量は昭和二〇年までは双方あわせて十数%に過ぎなかった。「灘の下り酒」「灘の生一本」「灘の男酒、伏見の女酒」など、これらの産地の酒を称えるキャッチフレーズが…

「吟醸酒への招待」 篠田次郎 (1997) 中公新書

そればかりではない、多くの器具は紙や布で覆い縄掛けまでするのだ。半年たったらまたやってきて、包装を解き位置に据え、たんねんに清掃、洗浄する。だから蔵を去るとき、それほどていねいに取り片付けなくともいいだろうと私は思うのだ。これは彼らの清潔…

「古本屋の女房」 田中栞 (2004) 平凡社

これも実家から借りてきたもの。文字通り古書店夫人のエッセイで身辺雑記のようなものだが、「本フェチ度」がものすごい。趣味なんだろうが、全国の古書店を訪ね歩くくだりが読ませる、というより、ちょっと呆れる。京大の周辺やAmazonで見かける古書店とは…

「赤めだか」 立川談春 (2008) 扶桑社

聴いていて鳥肌が立った。弟子の祝いの会なのだ、手慣れた十八番の根多で観客を爆笑させることなど簡単だろうに、談志(イエモト)はそれをしなかった。落語と向き合ってゆく姿勢、喉の良くない談志が、勿論圓生とは違うアプローチでだが、唄っている。噺家…

「中谷宇吉郎随筆集」 樋口敬二編 (1988) 岩波文庫

どの学問でもそうであろうが、特に物理学の方面では、本当の意味の指導ということは非常に困難な事であって、先生の予期されるように弟子たちはなかなか進歩しない。或る時先生はS教授に、「君、若い連中を教育するには、無限に気を長く持たなければいかんよ…

「龍宮」 川上弘美 (2005 単行本は2002) 文春文庫

幻想譚というものだそうである。そこから何も教訓めいたことを引き出すことが出来ない/それを拒むような「おはなし」なのだけれど、それらの中には「いつか死ぬ」という思いが通底している。人間も、異形のものたちも、歳をとりながら、死に向かって疾走し…

「わたしの普段着」 吉村昭 (2008 単行本は2005) 新潮文庫

氏は、ベレー帽をぬぎ、感謝の言葉を口にしているらしく深く頭をさげ、その席に腰をおろした。その仕草がまことに優美で、私は美しいものを見た、と思った。緑の濃い季節で、氏が坐った座席の窓が緑一色にそまり、氏のいんぎんに頭をさげた姿が、緑の色と調…

「初夜」 イアン・マキューリアン 村松潔訳 (2009) (新潮クレストブックス)

彼は記憶のなかの彼女をそっとそのままにしておきたかった。ボタンホールにタンポポを挿し、ビロードの布きれで髪を結わえて、キャンバス地のバッグを肩にかけていた、あの骨格のしっかりとした美しい顔と飾らない満面の笑みを。(p-165) えらく扇情的なタ…

「役に立たない日々」 佐野洋子 (2009) 朝日文庫

ガンと聞くと私の周りの人達は青ざめて目をパチパチする程優しくなった。私は何でもなかった。三人に一人はガンで死ぬのだ。あんたらも時間の問題なのよ、私はガンより神経症の方が何万倍もつらかった。百万倍も周りの人間は冷たかった。私の周りから人が散…

「ま・く・ら」 柳家小三治 (1998) 講談社文庫

なかなか人を育てる、見るというのは難しいもので、つまり自分がこうあってほしいからとそっちへ追いやろうと思ってもダメなんですね。そっちへ行くなよと、かえって引き戻してやると、自分の力で向こうへ行こうとする。その自分の力を見つけてやるというこ…

「大好きな本 川上弘美書評集」 川上弘美 (2010 単行本は2007) 文春文庫

父よなぜあのときあんなことを言った。おかげでわたしは十年もマルヤサイイチという作家の本を読まずに過ごしてしまったではないか。読めずに過ごしてしまったではないか。ゆるせん。ゆるせーん。(「男もの女もの」 p-326) あはは。書評というか、個々の本…

「女たちよ」 伊丹十三 (2005 単行本は1968) 新潮文庫

こんな安物をも飾り立てずにはおられない。それがかえって貧乏たらしいことに気づかない。これは安物だからガスがなくなったら捨ててしまうんだ、というところがクリケットの颯爽たるところじゃないの。なんにもわかっちゃいない、のです。(スパゲッティの…

「調理場という戦場 『コート・ドール』斉須政雄の仕事論」 斉須政雄 (2006 単行本は2002) 幻冬舎文庫

才能というもののいちばんのサポーターは、時間と生き方だと思う。才能だけでは駄目だと思うのは、「時間や生き方なしでは、やりたいことの最後までたどりつかない」と僕が感じているからなのです。仕事に合った生き方を持続できるかできないかが、才能の開…

「イノベーションの知恵」 野中郁次郎 勝見明 (2010) 日経BP社

施設で行われる訓練指導は例えていえば、国語、数学、理科、社会、英語とあって、数学が苦手な人は数学を克服しなければ社会参加しては駄目という考えです。でも、それは管理する側の論理です。障害者の側に立てば、"数学抜きの私立文系"の生き残り方もある…

「就職、絶望期 「若者はかわいそう」論の失敗」 海老原 嗣生 (2011) 扶養者新書

遅々としてまるで変わらぬように見えて、アメーバのように最適なかたちへとなし崩し的に変化していく。それが日本という国の得意技なのだ。雇用の改革も、もう半ばまで到達し、少なくとも「年功序列」は穏やかに崩壊している。10年後に振り返ると、「ああ、…