「役に立たない日々」 佐野洋子 (2009) 朝日文庫

役にたたない日々 (朝日文庫)
ガンと聞くと私の周りの人達は青ざめて目をパチパチする程優しくなった。私は何でもなかった。三人に一人はガンで死ぬのだ。あんたらも時間の問題なのよ、私はガンより神経症の方が何万倍もつらかった。百万倍も周りの人間は冷たかった。私の周りから人が散っていった。(二〇〇五年春 p-113)
面白いとか笑うとかいう評があるのだけれど、その実、悲惨でもあるだろう。強烈な批評眼が自らの内外に向けられ、時に精神を病み、周りの人間を傷つけていく、その様子が実感として想像できてしまう。もう十分生きたから無事に死なせてくれというのは、ある程度本音ではなかったか。死の数年前だが、頭は明晰だし、文章のgroove感がすごい。人生の最後に人間は何を思って日々を生きるのか、これほど赤裸々な回答はないだろう。「強烈な人」である。(2012年2月10日読了)