「初夜」 イアン・マキューリアン 村松潔訳 (2009) (新潮クレストブックス)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)
彼は記憶のなかの彼女をそっとそのままにしておきたかった。ボタンホールにタンポポを挿し、ビロードの布きれで髪を結わえて、キャンバス地のバッグを肩にかけていた、あの骨格のしっかりとした美しい顔と飾らない満面の笑みを。(p-165)
えらく扇情的なタイトルがつけられているが、原題は"On Chesil Beach"という大人しいもの。出来事は他愛もないといえば他愛もないものなのだけれど、回想が差し挟まれ、鮮やかに場面が転換するさまはまるで映画を見ているようで、その流れるような展開に吃驚する。若いが故に、二人はなすすべなく分かれてしまう。若いということは、不自由ということでもある。(2012年2月14日 読了)