「ま・く・ら」 柳家小三治 (1998) 講談社文庫

ま・く・ら (講談社文庫)
なかなか人を育てる、見るというのは難しいもので、つまり自分がこうあってほしいからとそっちへ追いやろうと思ってもダメなんですね。そっちへ行くなよと、かえって引き戻してやると、自分の力で向こうへ行こうとする。その自分の力を見つけてやるということが実は大変なことだったんだということを、あたくし五十五を過ぎてからそれが少ぅし見えてまいりました。(口上 p-400)
噺家が弟子を育てるというのも大変だろうな、と思う。いろんな人間が来るのだろうし。この人も最初は極めて厳しかったようなのだけれど、最後はこういう境地に。しかしなかなかそこに至るのは難しい。あるいは、そこまでジタバタするからこそそれでいいのであって、最初からなんでもいいというわけではないのではないか、とも思う。多くの若い世代が仕事で「コミュニケーション能力」を要求されるようになったのとちょうど同じように、我々の世代の多くが、好むと好まざるとに関わらず仕事で「教育力」を要求されるようになっているのかもしれない。面倒なことである。(2012年2月5日読了)