「中谷宇吉郎随筆集」 樋口敬二編 (1988) 岩波文庫

中谷宇吉郎随筆集 (岩波文庫)
どの学問でもそうであろうが、特に物理学の方面では、本当の意味の指導ということは非常に困難な事であって、先生の予期されるように弟子たちはなかなか進歩しない。或る時先生はS教授に、「君、若い連中を教育するには、無限に気を長く持たなければいかんよ」といわれた由を、同教授から聞かされたことがある。(指導者としての寺田先生 p-230)
ものを書く科学者の系譜というのは寺田寅彦に始まるのだろうけれど、その弟子である中谷宇吉郎の文章も驚くほどの名文である。単なる随想や一般向けの啓蒙に留まらず、科学者に向けて発するヒントや警句は深い納得と共感を持って読める。当時からすれば科学や大学を巡る状況は様変わりしたように思ってしまいがちだけれど、本質は変わらない。その在処をもう一度確かめ、自らのありようを振り返ることが出来る。(2012年2月25日読了)