「人類の星の時間」 シュテファン・ツヴァイク 片山敏彦訳 (1996 初版は1961) みすず書房

人類の星の時間 (みすずライブラリー)
地上の人間たちの中へきわめて稀にしか下りて来ないようなそんな偉大な瞬間は、それを生かすことのできない不適任者におそるべき報復をする。あらゆる市民的美徳、ひかえめ、従順、熱心さと穏健、それらはつねにただ天才力を要望し、天才力を持続的な姿にまで形づくる大きな運命的瞬間の白熱する炎の中では力なく溶け去ってしまう。そんな瞬間は尻込みする者を軽蔑をもって押し返す。地上の別格の神とも言うべきそんな大きな運命的瞬間は、大胆な者だけを、炎の腕でつかんで英雄たちの天堂にまで引き上げる。(ウオーター・ローの世界的瞬間 p-175)
いささか時代がかった文章だし、「歴史の針が動いた瞬間」をクローズアップするというのもアイデアとしてはもはや陳腐だろうが、これがその原点なんだろう。それにしても「星の時間」(Sternstunde)という造語が素晴らしい。人類史的なそれは凡人にはなかなか訪れなくても、個人史的な「星の時間」はあるはずで、そこでの振る舞いが人生を決定づけるということはありそうである。はたして?(2012/04/02 読了)