「『若者はかわいそう』論のウソ データで暴く『雇用不安』の正体」 海老原嗣生 (2010) 扶養社新書

「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書)
この本は、単純に考えると「若者は言われるほどかわいそうじゃない」、つまり、今の日本は問題ないよ、と受け止められる嫌いがあるだろう。確かにその意図は、少しある。パッチワーク的に集めた「若者かわいそう」論、そういう俗説的状況と現実は異なる、というのがこの本の一面である。ただ、それ以上に意識したことがある。それは、「"若者かわいそう"なんて言ってる場合じゃないよ」ということ。もっと大きな変化が、社会の奥底で起きているのだ。(最終章 錯綜した社会問題に解を! p-262)
だったらもう少しアオリじゃないタイトルを付ければよいのに。温暖化問題のような「ホントかウソか」の論争の中で消費してしまっていい話ではなかろう。「ウソ」という割には、「明らかにおかしいところはあるけど、部分的にはたしかに問題がある」ということなのだろうし、本の最初と最後で受ける印象はだいぶ違う。社会のありようが変わる中で、能力を磨いてグローバルに生き残ろうとする「上位層」ではなく、刻苦勉励できなくても生きていかねばならない「その他大勢」はどうすべきなのか、にスポットをあてたとしても、結局は「目を覚まさねばならない」のは同じだろう。「対人折衝力を問われない仕事が減ってきているのではないか」という指摘はなるほどだし、巻末の提言も説得的。是非実現に向けて動いてもらいたいところ。(2010年10月3日読了)