「走ることについて語るときに僕の語ること」 村上春樹 (2010 単行本は2007) 文春文庫

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)
このような能力(集中力と持続力)はありがたいことに才能の場合とは違って、トレーニングによって後天的に獲得し、その資質を向上させていくことができる。毎日机の前に座り、意識を一点に注ぎ込む訓練を続けていれば、集中力と持続力は自然に身についてくる。これは前に書いた筋肉の調教作業に似ている。日々休まずに書き続け、意識を集中して仕事をすることが、自分という人間にとって必要なことなのだという情報を、身体システムに継続して送り込み、しっかりと覚え込ませるわけだ。(僕は小説を書く方法の多くを、道路を毎朝走ることから学んできた p-117)
写真入りの文庫本って、エッセイには多いんだ(w。小説は読まないのだけれども、この人のエッセイは嫌いではない。非常に意識的な生活、意識的な人生だなと感心する。小説家だから、それが仕事なのだろうが。文章を書かないとものが考えられないというのはよく分かる気がするし、身体に覚え込ませるように仕事をするというのも、知らず知らずのうちにやっていたこと。仕事が生活の糧を得る手段であるだけでなく、何かを生み出すこと、生きることそれ自体であるような人間は、そうならざるを得ないのだろう。唸らされるのはその先、そうした生きることの質を高めていこうと意識的、計画的に努力し続けるところ。マラソンのアナロジーは、その意識を保ち続けることに資するだろう。もう少し意識的にならねば、といった自己啓発的な読みができるのも、この人の人気の理由なのだろうか。(2010年9月21日読了)