「世界の測量 ガウスとフンボルトの物語」 ダニエル・ケールマン 瀬川裕司訳 (2008) 三修社

世界の測量 ガウスとフンボルトの物語
どこへ行っても、彼がメモを取る速さは労働者の驚嘆の的となった。つねに旅の途上にあり、眠ったり食事をしたりすることもほとんどなく、そんな生活がどんな意味を持つかについては、見当も付かなかった。兄に送った手紙には、僕の中には、自分がいつか理性を失ってしまうのではないかと恐れを抱かせる何かがあるようですと書いた。(第二章 「海」 p-28)
フィクションは読まないのだが、これは面白く読んだ。虚実ないまぜの中に時折差し挟まれる風刺や皮肉を味わうという文学的な読解もあるのだろうけれど、世界を知りたい、理解したい、という自分でもよく分からない強烈な欲求に突き動かされて、あらゆる世俗的な幸福を置き去りにして突進していく「ドイツ的な」人物像のカリカチュアに親近感を覚える。そうだよね、こうあらざるを得ないんだよね、といった感じで。すべてが間接話法で書かれているのも、会話からその発話者や場の要素が抜け落ちてしまい、その意味だけが脳内に現前するといった、そうした天才達の「意識」を示しているようで面白い。(2010年9月25日読了)