「貧困の終焉 2025年までに世界を変える」ジェフリー・サックス 鈴木主税・野中邦子訳 (2006) 早川書房

貧困の終焉―2025年までに世界を変える
この本のページをめくる未来の世代には、私たちがこの重大な問いにどう答えたかが分かるだろう。その証拠は、彼らのいる世界に見られるだろう。歴史が私たちを裁くだろう。しかし、それがどんな歴史になるかは、私たちの行動による。私たちがいったい何者なのか、何をしてきたか、どんなことで記憶されたいのか。私たちの世代がその方法を知らなかったとはけっしていえない。それをする余裕がなかったともいえない。それをしない理由があったともいえない。すべては私たちの決断いかんにかかっている。責任をよそにシフトするか、それとも、この本で教授が提案しているように、パラダイムをシフトさせるかなのだ。(序文 ボノ(U2)p-35)
この序文で完全にノックダウン。素晴らしいレトリック。ずいぶん前に買って積ん読状態にあったのは分厚いからだけれど、具体的な援助額の話はともかく、退屈はしない。特に著者がボリビアポーランドの経済を立て直して「臨床経済学」を構想するに至る過程は大変面白い。ゲイツ夫妻やジョージ・ソロスの活動の基盤になっているアイデア、「金持ちが富を蓄積するには、貧乏人がますます貧乏にならなければいけない(p-73)」わけではないこと、極度の貧困にあえぐ人たちも「経済開発の梯子のいちばん下の段に足をかけ(p-59)」られさえすればよいこと、これまで「一般の認識とは逆に、実際のところ、アフリカ人一人あたりに送られる年間援助額はとても少ない(p-428)」ものに過ぎなかったこと、こうしたことをふまえ、きちんと計算機をたたけば、地球上から極度の貧困をなくすことは十分可能であること、は説得的。アフリカがなぜ注目されているのか、単にBOPな投資先としてだけではなく、そうした世界史的な動きがあるのだろう。(2010年8月26日読了)