「なんとなくな日々」・「此処彼処」 川上弘美 (2009 単行本は2001・2005) 新潮文庫

なんとなくな日々 (新潮文庫)此処彼処 (新潮文庫)
京都で、フロリダのすっぽんに会った。何時間か後には私は東京に帰っているだろう。一瞬のすれ違いである。生きている間にそういうすれ違いはいくつもあるのだろうな、と思うと、ちょっとくらくらした。ちんちんちん、という踏み切りの音を聞きながら、京都の空を私は眺めあげた。青い青い、空だった。(すっぽん p-151)
そういえば実家を出て以来、私は一軒家に住んだことがない。裏庭のある場所に住むことは一生ないような気がする。せめて太りすぎの安ミョウガを刻んで、昔のよすがとするのみである。(高井戸・その1 p-173)
なんということはないエッセイ。だが、ときどき読むと、ほっとする。電車の中でクスッと笑ってふと、ちかごろ笑っていなかったことに気付く。のんびりしたように見える日常の風景の中に、生きることの寂しさが滲む。(2010年10月13日・16日読了)