「本当の『食の安全』を考える ゼロリスクという幻想」畝山 智香子 (2009) 化学同人

ほんとうの「食の安全」を考える―ゼロリスクという幻想(DOJIN選書28)
若いお母さんたちが、必要のない不安に悩まされることなく本当に大切なことにリソースを割くことができるように、一人でも多くの人が適切な情報を持っていて欲しいと思います。今より未来のほうが少しでもよくなるように努力するのが大人の責任だと思います。そのために本書が少しでも役に立てればこの上ない喜びです。(あとがき p-201)
blogでの膨大な情報発信を支える、著者の科学者としての矜持が伝わってくるが、本文は全編極めて淡々とした調子で進み、ちょっと笑ってしまうくらいである。食の安全性にかかわる議論では、そうした淡泊さが無用な争いを防ぐのかもしれない。安全基準の考え方などは詳述されており、なんとなく口にしている天然物よりは、問題のないことを調べてある人工物の方が安全である、ということを、(算術計算を追えば)説得力を持って示している。最大のリスク低減策は食の多様化であるというのは、ここ何年も同じものばかり食っている者としては反省しきりだし、特に最近読んだ記事(pdf)と共に、カビ毒には気をつけなくてはならないと心を改める。よく平積みになっている印税稼ぎの警告本を読みあさる情熱があれば、決してこの本も難しくないと思うのだが、売れ行きはどうなのだろう。いやもっと言えば、誰もが刻一刻と老いていき、100年もたたないうちに死ぬのだ、という厳然たる事実の方が、よほど「安全・安心」であると思うのだが。多くの人々は、永遠に生き続けるつもりであるかのようだ。(2010年7月12日読了)