「モーム語録」行方昭夫 (2010) 岩波現代文庫

モーム語録 (岩波現代文庫)
二十五年間こういう僻地で何一つ心を煩わすことなくのんびり暮らした後では、毅然たる性格は失われるということだ。人間の意志は障害に立ち向かうことで強まる。意志が阻害されなければ、目標を達成するために努力を要せず、自分の手の届く範囲にあるものだけで欲望が満たされるのならば、意志は無能になる。(I 人生とは何か p-31)
世界初のサマセット・モーム警句集とのこと。「人生に意味はない」という、実もフタもないというか、極北の人生観から繰り出されるアフォリズムは、「確かに」と思わせたり、ヒヤリとしたり。子どもの頃、ろくに読まなかったけれど平凡社の世界名作全集が家にあって、「月と六ペンス」というタイトルが妙に記憶に残っている。その作者が彼で、結構最近の作家で、しかも一時期日本で大ブームだったことを知る。亡くなる前年までの発言を断片的に追っていくと、透徹した眼を持った一人の人間が、何を考えて生き、最後に何を思ったかをたどることが出来て面白い。結局最後まで人生観は変わらず、「十分生きた」と言って死ねれば幸せだろう。そのように生きたいものである。(2010年8月6日読了)