「コーヒーが廻り世界史が廻る 近代市民社会の黒い血液」臼井隆一郎 (1992) 中公新書

コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液 (中公新書)
誰でも思いつきそうなことを実現できるかどうかは、熱意と根気の問題を別にすれば、だいたいはコネの問題である。当時、アムステルダムの市長がルイ十四世に贈ったコーヒーの木は王立植物園の温室にあった。マルリー城に届けられた翌日、パリの植物園に輸送されたのである。その後、コーヒーの木は多少、数を増やしていた。しかしコーヒーの木を分けてくれというドゥ・クリューの願い出に、植物園の園長たちが首を縦に振らなかったのは当然である。うんと殖やすからパンダを分けてくれと上野動物園に駆け込むような話なのである。(第四章 黒い革命 p-112)
あはは。ずっと以前に買ってそのままになっていたものだが、圧倒的な情報量で押していく硬質な文章のあいまに差し挟まれる脱力なギャグが笑える。「総合文化研究科 言語情報科学」でどうしてコーヒーがご専門なのか分からないが、よくぞここまでネタを集めたものだと感心。コーヒーを巡って世界史がたどれてしまうというのは虚を突かれた気がしたが、単なる嗜好品を超えて植民地経済の原動力でもあったわけだから、言われてみればなるほど。ドイツであまた見かけるカフェの裏に、このような歴史と人々の思いが張り付いていることを学べたのは収穫であった。(2010年8月14日読了)