「きつねのはなし」 森見登美彦 (2006) 新潮社

きつねのはなし
ベビーカステラの甘い匂いが鼻先を流れた。そこに奈緒子は立っていた。ふわりと夢見るような目で、夜店を眺めていた。彼女のぶら下げたハンドバッグの中から、繰り返し、鈴の音のような着信音が響いていた。(きつねのはなし p-71)
骨董をやりとりするということ、捏造した自伝を生きる先輩、ケモノの匂い、封印された龍。様々な物語が語られるさまを楽しむ本といったおもむき。登場人物が少しずつ重なっているところは「四畳半」と同じで、これは確かに作品のイメージが広がって面白い。しかし、一層面白みを感じるのは、やはり現実に京都を良く知っているからで、学生時代以来の記憶の断片が、ときおり呼び覚まされる。(2011年3月12日読了)