「f植物園の巣穴」 梨木香歩 (2009) 朝日新聞出版

f植物園の巣穴
 何が起こっているのか。/ 普通なら次次と過ぎ去って戻ることのない時間が、まるでここには吹き溜まっているようであった。私はそれの「理由」を考えた。省みるに私の場合、それを、古い時間の細胞を、始末する手段が通常の人人のそれと違っていたのだろう。いや、その手段の持ち合わせがなかったのだ。その技を知らずにいたため、古い時間は徒にどんどん降り積もる。始末する必要などない、過去の思いなど、風でも吹いてそこらに撒き散らすものと思っていたところを、あにはからんや風は吹かない。積もり積もった挙げ句ににっちもさっちもいかなくなった。/ 自分の置かれた状況を推察するに、このようなことではなかろうかと思った。他に思い当たるところとてない。(p-113)
現代小説家の系譜というのは私の中では(読んでないけど)笙野頼子氏が注目を集めていたころで終わっていて、その後どんな書き手が何を書いているのか、さっぱり分かってないわけだけれども、これはかなり興味深く読んだ。ストーリーのみならず、そのテーマとするところ、あるいは作者の世界観のようなものに親近感を覚える。まぁ、そういうしっかりと地歩を固めた人たちと年齢的に近くなってきた、ということでもあるのだろうけれども (苦笑。(2011年3月14日読了)