音盤博物誌 片山杜秀(2008)アルテスパブリッシング

片山杜秀の本(2) 音盤博物誌
楽家の日常の姿は、その人の音楽を反映するものだと思う。たとえば、私の見かけた、若き日のエリアフ・インバルは、食堂の人目につくテーブルで、お膳の前にフル・スコアを立て、肉を頬ばりながらページを捲っている、いささか怪しげな人物だった。チャールズ・グローヴス卿は、喫茶店でウエイトレスに、膝に水をこぼされても、別に怒るわけでもなく、あくまで好々爺然としていた。そうした光景が、そのまま彼らの音楽だろうと、今でも思っている。(26 翁になったフルネ p-159)
概してこの手の本は2冊目はトーンダウンするのではないかと思うが、さらに快調。事情通にはあたりまえの話なのかもしれないが、日本の近現代の作曲家や指揮者、演奏家を、決して「亜流」ではなく、音楽の歴史の中で評価しようとする姿勢が刮目。しかも文章がめっぽう面白い。明治以来の「日本のクラシック音楽」という豊かな鉱脈の存在を世に知らしめた、ということになろう。(2009年11月28日読了)