音盤考現学 片山杜秀 (2008) アルテスパブリッシング

片山杜秀の本(1)音盤考現学 (片山杜秀の本 1)
そうした状況がほぼ確定し、小沢開作が大きな幻滅に包まれていた三十五年、征爾は生まれた。父がその名前に託したものはもはや明白だろう。板垣と石原の力を借りてこそ産まれるはずだった「調和」の楽園、理想の満州国は死産に終わった。開作はその理想の力強い再生を息子に託したかったのである。(二七 小澤征爾と「満州」 p-139)
音楽を音だけでなくその歴史的背景込みで聴こうとする岡田暁生氏のアプローチに通じるもの。クラシックの現代音楽、それも日本の作曲家や演奏家の話が多い本というのは通常読み通せるものではないと思うが、小難しい音楽理論や業界事情のみに終始することなく、時代背景や人間関係、他の事物との相関を読み解くことで、極めて興味深い読み物になっている。クラシックはもはや「ハイソサエティー」の象徴ではないかもしれないが、こうした多様な読みを許す点で、やはりいま最も面白いジャンルだろう。(2009年11月22日読了)