音楽の聴き方 岡田暁生(2009)中公新書

音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)
だが面白いことにヨーロッパの音楽好きは、「上手い・下手」という言い方を、まずしない。そもそも、その語彙がない。(第二章 音楽を語る言葉を探す p-72)
音楽を聴くことに興味はあるが、それをどのように捉えていいのかが長らく分からなかった。「好き」というような気持ちでもないし、「カッコよいから」というだけでもない。もちろん、クラシック音楽への漠然としたあこがれの中には、「ハイソサエティ」への憧憬もあったろう。しかしそれだけでは納まらない、なにか、歴史の風雪に耐えた古典の持つ人類の叡智のようなものを「分かる」ようになりたい、という気持ちがあったように思う。それは哲学や思想への思慕にも通じるものだろう。この頃ようやく分かってきたのは、それらの「歴史」を知識として学べば、一つのパースペクティブを持って「分かる」ことができそうだということである。この著者の「西洋音楽史」はその発想に基づいて書かれているし、この本もまた、そうした流れを知り、語る語彙を持てば、音楽を聴くという行為をさらに豊かに展開することができることを示唆する。そしてその次に来るのは、音楽を「する」ことだと。音楽とは漠然と聴いて「感動」のような何らかの印象を受けるものであるという発想はもうそろそろ「乗り越えてよい」ということである。(2009年9月20日読了)