「一日一生」酒井雄哉 (2008)朝日新書

一日一生 (朝日新書)
桜は咲くことで精いっぱい、「今年も咲きましたぞー」ってみんなに教えてくれているんじゃないって。来年はもっと良い花を咲かせようと思って、またがんばってくれているのとちがうかなって。桜がぼくにそう教えてくれたような気がしたんだよ。散ったからといって、寂しがることないんですよって。(第五章 調和 p-161)
千日回峰行を二回行った、比叡山に記録が残る過去400年間に3人しかいないという行者さんの言葉をまとめたもの。ごく普通の、どちらかと言えばむしろ「遅咲き」の青年が寺と出会い、修行に励む中で考えたことが語られる。言われていることはごく普通のことだけれど、そうした修行の間の圧倒的な時間と思索が説得力を与えているのだと思う。「ありがたい言葉」というものがあること、それはその言葉が、苛烈な修行をくぐり抜けた「この人」という強力な身体性を帯びているからであることを思い知る。「なにを言うか」ではなく「誰が言うか」ということはやはり重要なのだ。そのような「何者か」になりたいものである。(2011年3月25日読了)