「教育の職業的意義−若者、学校、社会をつなぐ」本田由紀 (2009) ちくま新書

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)
いまの日本社会が若者に用意しているのはこのような現実だ。それを作ってきたのも、それに手を拱いているのも、多くは若者たちより上の世代の人間たちである。このままでは、教育も仕事も、若者たちにとって壮大な詐欺でしかない。私はこのような状態を放置している恥に耐えられない。(第5章 「教育の職業的意義」の構築に向けて p-214)
 キーボードをたたく指の力が伝わってくるような本。かなり周到かつ明解に、この国の教育に欠落してきたものを論じていると思う。本書にも紹介されている(p-113)、国際的にも突出した日本の中高生の学習意欲の低さ(「どうしてこんなことを勉強しなければいけないのかと思う」…61%)にはかつて度肝を抜かれたが、それは何故なのか、たぶん、ここに書いてあることが正解だろう。そうした事態を前に、教育学が「教育の政治的意義」だとかなんとかに拘泥しているとすれば、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。それではあなた方は40年くらい、何も進歩がないんじゃないですか、といいたい。じゃぁどうすればいいのか。混沌とした時代に、制度的な解決を待って「手を拱いて」いることなく、「なんとかせないかん」と思った人々が、それぞれの持ち場で、同時多発的に、自分の受けたことのない教育を作り出そうとするしかないのではないかと思う。「坂の上の雲を目指す」とはそういうことだろう。そこにしか、希望はないように思える。(2010年5月4日読了)