「コトの本質」 松井孝典 (2006) 講談社

コトの本質
我は初めからあるものではありません。我の形成途上にある人間には、我なんてないのです。しかし、いまの教育では前提として我があるかのように扱う。それが個人の尊厳だと誤解している―すべての間違いの元はそこにあると思います。我とは何なのか、そもそもそれを考えたことのないような人たちが、平気で我を語り、我を主張しています。(第二章 育つプロセスを見る p-60)
いかにも理学部の人らしい、明快な議論が断定調で語られるが、ここまで突き抜けてしまっていると嫌みはなく、優秀な人にはいろんなものが見えるんだなぁ、すごいなぁ、と感心するよりほかない。大学時代に寄付を取り付けてユーラシア大陸をまわる冒険に出るなど、若いころから大物で、何も真似できるところがないが、研究者の教育法やセンスの問題、一般の人に専門的な話をいかに(理解ではなく)「納得させるか」という話は勉強になる。こういう人たちに比べれば、自分には「研究者を育てる力」がまったく足りないと思うし、自分がそういう「センス」を持っているとして選ばれたという気もしない。(2010年2月22日読了)