新 脱亜論 渡辺利夫 (2009) 文春新書

新脱亜論 (文春新書)
開発途上国の開発に資することは、現在の日本の最も重要な外交課題の一つである。「開発学」の原点を後藤新平たちの台湾開発の思想と構想の中に求め、日本に固有な開発の「学」としてこれを錬磨していかなければならない。(第7章 台湾割譲と近代化―日本の統治がもたらしたもの p-196)
日本の国際協力といえば途上国の開発援助という印象を持つが、それは単にカネがあるからでもヒモ付きで儲かるからでも(本来は)なくて、そうしたある種輝かしい歴史的伝統を踏まえたものであることに思い至る。「経済開発学入門」という著書もある、この経済学者の矜持なのだろう。日清戦争からいわゆる15年戦争までを穏健保守の立場から概観するといった感じで、どこかで聞いたような「昔の人は偉かった史観」のようなものがよくまとめられていると思う。すべてをフォローする根気はなかったので著者の主張部分を拾い読んだが、特に目新しさは感じない。「東アジア共同体」といっても、EUのようなものができるとは誰も思っていないだろう。先の本にあったように、「お隣が中国人でお向かいがインドネシア人」といった状況に最も拒否反応を示すのは日本人だろう。しかし、それでもその輝かしい「開発学」の伝統を踏まえて、隣国をなだめ、他の東アジア諸国の発展を助けて自らも成長することで、国家の「老い」に抗っていくという方向性はアリだろう。昔の人の「偉さ」は、そうした国家の「若さ」があってこそではなかったか。歴史から学んだ結果が「現状維持」では物足りない。我々は「その先」を仕掛けていかねばならないだろう。(2010年1月17日読了)