東海村臨界事故への道 七沢 潔 (2005) 岩波書店

東海村臨界事故への道 払われなかった安全コスト
ヘリコプターの中で若い二人は携帯電話で自宅に連絡していたという。篠原氏は「今日は帰れないので子どもを病院に連れて行けない」と話し、大内氏も実家に預けている子どもを迎えに行けなくなったと話していた。(第4章 崩壊したJCOの安全管理体制 p-206)
講義準備で読んだ一連の本の最後の一冊。なぜ事故が起こったのか、その本当のところは極めて複雑な原因を丹念に追った労作と言える。そこで明らかになるのは、なにも現場に居合わせた人たちが悪かったわけではなく、多くの責任ある人たちの二十年間に及ぶミスや不作為が重なり合った結節点に、あの出来事があったということである。そうしたある意味「周到に準備された」場に置かれたら、誰でも事故を起こしただろうということだ。こうした命に関わる現場に限らずあらゆる職場で、なれ合いやら多忙やら見逃しやら見送りやらといった、一つ一つは取るに足らない理由の積み重ねによって、取り返しのつかない失敗を準備している可能性があると思う。場の大切さ、そういった「ちゃんとした」仕事のできる場を維持することの大切さを思う。(2009年11月13日読了)