市民科学者として生きる 高木仁三郎 (2000) 岩波新書

市民科学者として生きる (岩波新書)
これに対して武谷先生は、次のように言われた。「科学者には科学者の役割があり、(住民)運動には運動の果たすべき役割がある。君、時計をかな槌代りにしたら壊れるだけで、時計にもかな槌にもなりはしないよ」(第7章 専門家と市民のはざまで p-164)
いわゆる反原発運動の旗手であった科学者の自伝である。なぜそういう運動に身を投じていったか、その動機と経緯が明らかにされる。それは、バラ色の未来を喧伝してきた科学・技術と科学者に深刻な懐疑が持たれた「時代の必然」として、十分理解しうるものである。時は下って、いまや、一般の人々とまったく解離した意識を持つ科学者などというものは、いたとしても少数派だろう。彼の構想した「市民科学者」にあたるNPOも、わずかではあるかもしれないが生れているだろう。一般の人々との交流の中で研究課題を設定しようという試み、科学者と市民との協働で意志決定を行う試みもなされているようだ。残る問題はむしろ、こうして(渋々ながらも)歩み寄る科学者に対して、大多数の「市民」は、いまだに相手を疑うばかりで理解しようとはしないことであるように思える。(2009年11月7日読了)