近代 未完のプロジェクト J. ハーバーマス 三島憲一訳(2000)岩波現代文庫

近代―未完のプロジェクト (岩波現代文庫―学術)
そうした「ポスト形而上学」の時代の理論の可能性を追求し、批判の意味を模索し、たえず変貌する資本主義のそのつどの様態の理論化と政治参加の多元化を試み、人権の意味を新たに定義し直しながら、同時に複雑に多様化する差別や権利の剥奪を問題化し、一元的アイデンティティを最も批判し、ナショナルなものやエスニックなものへの濃縮還元を拒否する知のあり方、相互に選択しうる多様なライフスタイルの存在がごく当たり前でありながら、その相互調整が、プライベートにもパブリックにも、インターナショナルにも最も困難な問題となってきている我々の時代の知の検討ーこうした「ポスト形而上学的」な知の条件を論じるハーバーマスは、政治運動や市民運動のような具体主義的な行動と学問とが、そして時代への根本的反省を目指す哲学とが分裂しやすい日本のこの数十年の風土とはなじみにくいし、難解かも知れない。(訳者あとがき p-304)
表題の論文を目当てに読んだのだが、それ自体は難解でよく分からず。むしろそのあとのドイツにとっての戦争やナショナリズムについての文章が面白い。面白いというか、きわめて真摯な議論が展開されている。ここにあるように、「それでも前へ進もうとする」強烈な意志を感じる。いわゆる「大きな物語」を持たない現代における思想とは、こういう形を取るのだということを具体的に感得できる。
(2009年8月26日読了)