北里柴三郎(上・下)雷(ドンネル)と呼ばれた男(2007)山崎光夫 中央公論新社(単行本は2003)

北里柴三郎(上)―雷と呼ばれた男 (中公文庫 や 32-2)北里柴三郎(下)―雷と呼ばれた男 (中公文庫 や 32-3)
最高学府を出ながら、身の程を知る珍しい男だと柴三郎は思った。「ええ、遅鈍です。恃むところは辛抱強さしかありません」「きみはもしかして、謙遜してそうしたことをいっているのかもしれないが、細菌学を研究する上で最も大事なのは、辛抱強さだ。ゲドゥルト、つまり、忍耐だ」(第三章 疾風の機 p-132)
個人的にはこうした小説のような評伝は好まないが、それを差し引いても学ぶところの多い本であった。北里柴三郎は計6年間ドイツに留学していたことになる。「細菌学は一朝一夕には修得できない」と、帰国の命が降りたときも職を賭して留学の継続を主張したとか。自らを振り返って、やはりあの時帰るべきではなかったのではという疑念を禁じ得ない。「約束」を果たしたいま、もう一度来し方、行く末を考える。
(2009年8月14日読了)