ハーバーマス コミュニケーション行為 中岡成文 (2003) 講談社

ハーバーマス (現代思想の冒険者たちSelect)

ハーバーマスはまた、経済システムや政治・行政システムに歯止めをかけるために、生活世界のうちから「反制度」を生み出すべきだという主張にも、一定の理解を示している。もちろん、文化的近代(モデルネ)の合理性をシステムの合理性と混同してしまい、近代全般に反旗を翻そうとする人々には、かれは「青年保守主義」という手厳しい評語を用意している。「生活世界の合理化」を近代の偉大な獲得物として擁護し、推進していくかれの意志は、「未完のプロジェクトとしての近代」という構想に結実していく。(第四章 近代合理主義と人間のコミュニケーション p-184)

しばらく前、科学の在り方について議論していた大学の先生から、あなたの立場はハーバーマスが唱えた「未完のプロジェクト」の考え方と同じですよ、と指摘された。学生時代にハーバーマスが来日したとき、大学で講演したのを聴いたことがあり、「生」ハーバーマスを見たことがある。その頃は「現代思想」なるものを何とか理解しようと、ない知恵絞っていろんな本を読んでいたのだがちっとも分からなかった(こういう本があれば、もっと勉強できただろう)。彼の講演も英語が聴き取りにくく難解で、眠くて少しガッカリした記憶がある。そんなハーバーマスが10年以上もしてからひょっこり出てきて、少なからぬ因縁を感じている。
この本自体は、期待した「未完のプロジェクト」に直接的に触れた部分はほとんどなくて、その意味では肩すかしであった。しかし、現代では哲学は社会学を取り込んで、社会と斬り結び、それに説明、批評を与えていく実践的な学問としてある(もちろんこんなド素人な説明は正しくないだろうが、だいたいそんな感じだと理解)、ということや、哲学者たちは社会理論を次々と矛盾の少ないように改良していっており、その意味では自然科学と同じような営みである、というさまがよく分かった。議論の難しいところは分からなくても、面白い本というのはある。

(2009年7月11日読了)