山口組概論 ー最強組織はなぜ成立したのか 猪野健治(2008)筑摩新書

山口組概論―最強組織はなぜ成立したのか (ちくま新書)
改正暴対法下でのやくざ社会と警察の攻防はこれから本番を迎える。私が懸念するのは、やくざ社会から破門、絶縁された元組員たちの行方だ。ここ数年で数千人に上ると推定されるが、もちろん彼らとて食べていかなければならない。どう考えても普通に再就職できるはずがない。やくざ社会から追放されるだけあってワルぞろいである。それが組の統制から離れ、誰からも束縛されずに自在に泳ぎ回るのだから犯罪の多発は必至である。もはや指定団体の組員ではないから暴対法の網にもかからない。
 最近東京池袋にチャイニーズ・マフィアが新たに拠点を確保したという情報がある。これも身動きの取れない指定団体の足元を見てのことだ。今後、凶悪犯罪はますます増え、治安の悪化にいっそう拍車がかかることは明らかである。
(序章 やくざとはなにか p-13)
 確かに「暴力団」は困るわけだが、「やくざ」や「侠客」集団は、行き場のない人たちを吸収する最後の「セイフティー・ネット」として、古くから社会に対して一定の機能を果たしてきたのだ、という著者の主張にも説得力がある。彼らを弾圧するとして、では誰がそのあとのことを責任を持って考えているのか。「あとは自己責任で」と?(w。 社会を「漂白」するわけにはいかない以上、どこかでうまいバランスを探るのが「大人の仕事」だと思うが、警察をはじめとする「こちら側」の社会に、そういう全体的、長期的な戦略と覚悟があるとは思えない。
(2009年4月5日読了)