ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界を目指す銀行家 ムハマド・ユヌス&アラン・ジョリ(1998)早川書房

ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家
しかし、どうしてそうやって後ろ向きに考えるのだろう? 私たちのやり方を取り消すことはできない。私はすべて変化を目指してやっているのだ。変化の過程では、年を取った人は若い者に道を譲っていく。完全を目指すなら、年長者の考えを変えさせ、彼らを犠牲にしない限り、変化をもたらすことは望めないだろう。(第三部 創造 p-192)

原著が1997年刊なのでもう12年も前だが、世界は確実に変化している、ということを目の当たりにさせられる。これからは政府でも企業でもないNGONPO、あるいは彼の言う「社会的意識が動かす民間部門(プライベート・セクター)(p-278)」が、社会の中で大きな役割を果たすようになる、というのは長らく言われてきたことではあるが、日々の生活の中でそれを実感する機会はなきに等しい。しかし、その代表格であるグラミンがどのように生まれ、どのように世界に拡がっていったか、という経緯をみると、確かにそれが一過性の流行や話題ではなく、いままさに起こっている世界史的な変化であり、その流れが逆戻りすることはないだろうと思わされる。
今年は大変な不況で、若い人は大学を出ても職を得られず、途方に暮れている。しかし、そんな彼らを叱りとばして無理矢理旧態依然としたシステムに押し込もうとすることは、もう少し長いスパンで見てどれだけ理にかなったことなのか。彼らは新しい社会に生きるべきではないのか。世の中のこうした「芽生え」の部分を注意深く観察し、「次に来るもの」に対する認識を新たにする必要があるように思っている。
(2009年8月1日読了)